2009年から2年間、大学院で環境関連学を専攻するため、イギリスにやって来た私達の話 This blog is about us(U&I) coming to UK in 2009 for Environmental Study at master level for 2 years
by uk-env
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Dissertation on climate change committee
Iです。

帰国後まもなく2か月。ようやく、修論を提出しました。〆切が9月12日(郵送の場合は9日までに投函)で、8月末あたりから、どう頑張っても間に合わない、ペナルティ覚悟でlate submissionとしようと思っていたところ、大学寮のインターネットに不具合があったせいで全学で〆切が1週間延長に。おかげでどうにか間に合いました。

仕事をしながら論文を書く辛さは想像以上で、物理的に時間がないことももちろんですが、何より、アカデミック環境を離れて新しい仕事が目の前にある状況において、心が離れていくのをコントロールするのが大変でした。帰国後にアサインされたポストは気候変動とはほとんど関係がなかったせいもあり…。帰国してから修論を書こうと思っていらっしゃる留学生の皆さん、論文は、帰国前にできるだけ片付けてきた方が良いですよ、ホントに。

ともかく。提出した修論のタイトルですが、「Can an independent advisory agency contribute to successful climate policy?: evaluating the achievements and limitations of the UK's Committee on Climate Change」というもの。2008年の気候変動法に基づき設置された英国の気候変動委員会について分析していきました。

使ったセオリーは、time inconsistencyとcredibility hypothesis。一言で言うと、複数の相対立する政策目標を持つ政府は、その時々によって政策を変更する(過去に約束した政策を反故にする)インセンティブを持っており、政策の信頼性を高める必要のある政府は自ら、解決策として独立機関に政策決定権の一部を委任する、という仮説です。

この点、一番の論点になるのは「どこまで権限を委任するか」ということ。気候変動委員会に関しても、気候変動法の国会審議やその前段階のコンサルテーションにおいて大きな議論となったのがココでした。time inconsistencyの問題を語る時よく例に出されるのが中央銀行の利子率決定権で、イギリスでも労働党政権誕生直後の1998年に、イングランド銀行法によって中央銀行の金融政策委員会に利子率の決定権が委任されています。気候変動委員会をそのアナロジーととらえるなら、同委員会に政策決定権(例えば税率決定権)を与えるのも一案。しかし、そうした強力な権限は、気候変動委員会には付与されませんでした。気候変動は、金融政策と比べて政策の社会経済への影響の現れ方が複雑で、specificな政策決定権をunelected bodyに譲与することになじまない、というのが一つの理由です。あくまで同委員会が行うのは政府への「アドバイス」。最終的に政策を決める権限と責任は政府にあります。(ちなみに、日本的文脈だと、「あー、保守派が抵抗したんだろうな」とか思っちゃいますが、気候変動法に関しては、英国保守党は極めて進歩的。そもそも、気候変動法をやろうとキャンペーン張ったのが現首相デイビッド・キャメロンですから。。)

それでも、リサーチの過程でインタビューした関係者17人のうちのほとんどが、同委員会に付与された権限については極めてポジティブな評価を行っていました(ま、委員や事務局本人も含むのですけど)。気候変動法は、委員会のアドバイスに対して政府がきちんと応答しなければならない仕組みを担保しており、アドバイスを受け入れない場合には合理的な理由を説明しなければならないこととしています。政府の拒否権を極めて小さくしているところは、強力な政策決定権自体を委員会に与えないこととのバランスで、とても重要だと思います。

それでもあくまでアドバイザリ機関に過ぎない気候変動委員会にとって、政府にyesと言わせるためにはcredibilityが最も重要な問題。その維持のためには独立性と政治的中立性が極めて重要と思われます。

●独立性
 政府へのアドバイザリ機関として、政府から独立していることはとても大事。委員会が出す各種レポートは、かなり最後の段階まで政府関係者が読むことはないそうで(ただし、個人的な印象としては、それは建前だなと感じましたが。たぶん、あるレベルでは内々に情報交換されている)、政府からレポートの内容にケチを付けることはできないそうです。もちろん、政府側の分析と委員会の分析に相違がある場合は、徹底的に議論して何が違うのか追究するらしいですが。とにかく、委員会側のindependentであることへの誇りは予想以上でした。
 ただし、資金の面で政府に全面的に依存していることは、将来的にはアキレス腱になるかもしれません。委員会は多くの分析を外部コンサル等に発注しており、彼らの研究の質の維持のためには資金問題は死活的に重要。委員会の廃止には法改正が必要でも、政府は資金を絞ることで実質的に委員会をkillできます。英国ではbudget deficitの拡大への対処が急務で、日本では考えられないくらいのラディカルなspending cutが進む中、将来的には、資金問題が委員会の実質的な存亡を決定してしまうかもしれません。ただし、現在のところ、気候変動委員会のbudgetは、減らされているとは言え、他の政府系機関と比べると全然マシなようです。まだまだ政府の中での気候変動委員会への期待は大きいということ(とりわけ自民党との連立政権において)。

●政治的中立性
 私にとって一番おもしろかったのがココ。前述のように委員会に政策決定権はないので、理論上、政府は委員会のアドバイスを拒否できます。委員会はあくまで専門家の立場からアドバイスを行うため、political feasibilityは考慮する必要がない(むしろすべきでない)わけですが、あまりに政治的に実現不可能なアドバイスを行ったら、政府はこれを拒否せざるを得ない。そうすれば、アドバイスを行った委員会側のcredibilityにも?マークがつきます。
 この点、DECC(エネルギー気候変動省)とDfT(交通省)の課長の言ってることの微妙なニュアンスの違いが興味深かったです。DECCの課長は、委員会がもし純粋にサイエンスだけに基づくアドバイスをしたらそれは問題だけど、彼らは経済学にも強いので、しっかり経済的分析に基づくアドバイスをすれば、政治的実現可能性という意味での政府との乖離はあまり大きくならないだろう、というスタンス。そして、委員会は絶対にpoliticiseされるべきでない、そうすれば彼らのcredibilityは落ちてしまう、と言ってました。
 他方、DfTの課長は、credibilityのため、委員会はもっと現実的なアドバイスをするべき、とりわけ技術的実現可能性、文化的実現可能性についての分析が足りていない、という感じ。
 おそらく両者の言っていることどちらも正しいのだと思います。政治に左右されない専門家の意見を政策に反映させる(これこそ委員会設置の目的)という意味において、彼らが政治化されないことは重要だけど、政府が受け入れ可能な、地に足のついたプラクティカルなアドバイスを、あくまで政治的に中立な分析に基づいて行うことが必要。そのバランスはとても難しいと思います。この点、気候変動委員会のこれまでのパフォーマンスについては、多くのインタビュイーが好意的に評価。ココはたぶん、委員長や事務局長らの個人的な能力によるところが大きいように思われ、そうした超一流の人的資源を集められたことは、委員会設置当時(スターンレビュー後コペンハーゲン前という、一番気候変動が熱かった時代)の時代的背景も影響しているんだなと思いました。


研究を終えての感想ですが、2006-2008年頃の英国が、どれだけ気候変動に真面目に取り組もうとしていたかを改めて思い知らされます。2050年目標に法的拘束力を持たせたことの実質的意義は曖昧ながら、2050年に向けてきちんとパスを描き、確実にそれを達成しようとしていることが、炭素バジェットの創設とそれを実質的に決定づけるアドバイザリ機能をもった気候変動委員会の設置に現れていると思います。

当時、気候変動を仕事にしていた私は、あの頃の日本では、ようやく当時の安倍総理が2050年半減目標を打ち出したものの、その絵を描く際に、現在と2050年の排出量のグラフでパスをつなげて描くことが許されなかったことを苦々しく思い出さざるを得ません。あくまで短期的にはセクター別に積み上げる:長期的な削減目標との間には断絶がある、とされていました。政治的実現可能性という意味ではそこが落とし所だったわけですが、素人目にもどう考えてもおかしい理屈。やはり、政策のcredibility担保のためには、政治的実現可能性を考慮しなくてよい外部専門家に一定のpowerをdelegateした方が良いのでしょうか…

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さて、修論も提出し、これで2年間のイギリス留学に完全に幕を下ろすことができました。学んだことを活かせるか否かはこれからの自分次第!頑張っていきたいと思います。
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by uk-env | 2011-09-20 01:18 | 大学(Sussex)